交通事故の後遺症のひとつ「むちうち」は、交通事故の後遺症のうち約半数にものぼるといわれています。しかし、実際にむちうちになったことがあるという人でもなければ、詳しいことはわからないという人が多いことも事実です。
今回は、そんなむちうちについて、原因や症状、治療費用や治療方法、さらに後遺症が長く残ってしまった場合に受けられる後遺障害等級認定について解説します。
目次
むちうちとは? その原因や症状を解説
むちうちとは、簡単に説明すると「頸部の捻挫」です。むちうちを発症する際に、頭部を支えている首の部分がむちを打つようにしなることから、このように呼ばれています。
むちうちはぎっくり腰のように症状の総称としてつけられている名前で、正式な疾患名ではありません。正式には頸椎捻挫や外傷性頚部症候群といった名前が付けられることがほとんどです。
むちうちになる原因は事故の衝撃で首に強い負担がかかること
むちうちになる原因は、身体に不意に強い衝撃がかかり、頸部が頭を支えきれなくなってしまうことです。
普段は自覚していませんが、人間の体重の約10%は頭部の重さであると言われています。頭は通常頸部によってしっかりと支えられていますが、交通事故の場合は不意に身体に強い衝撃がかかることが多いもの。身体はシートベルトで固定されていても、重量があり安全装置のない頭部は支えきれないことがほとんどです。
そのため、頭部の衝撃を逃がすために首は前方に大きくしなり、揺さぶられます。その結果、首に普段かからないような強い負担がかかり、むちうちを発症してしまうといわれています。
むちうちの症状は頸部から頭部の痛みや肩こり・手足のしびれなど々
むちうちの具体的な症状としては、頸部から頭部にかけての痛みやひどい肩こり、首が回りにくくなる、頭痛や吐き気、痺れ、めまい、握力の低下や手足のしびれなど、非常に多くのものが挙げられます。
頸部には頸椎という身体を動かすために重要な神経が集まっている部分があり、その頸椎をむちうちで傷つけてしまうと、頸部だけでなく手足などにも影響が出ることがあるといわれています。また、神経を損傷することで、ヘルニアなど別の病気を発症してしまう原因となることもあるようです。
交通事故での「むちうち」どのくらい費用がかかる?
交通事故によってむちうちを発症してしまった場合、症状によって治療期間や治療費が大きく変動するので、一概にこれくらいの費用がかかる、といった平均を出すのは難しいです。
軽度のむちうちであれば数回通院して1ヵ月でよくなることもあります。
しかし、頸椎の神経を損傷する「神経根損傷」などの重篤な症状が出た場合、長期的な投薬治療や緩和治療、場合によっては損傷した神経を修復するための手術など、高額な治療が必要になることが多くなります。その結果、30万円以上の治療費がかかることも。
むちうちの高額な治療費を加害者側に「示談金」として請求できる
高額な治療費が必要となる症状を発症してしまうと、それが治るのかどうかという点に加え、「治療費をきちんと払えるかどうか」という点も心配になってしまいますね。
ですが、交通事故でむちうちを発症し、治療が必要だと病院で診断された場合、医師の診断書と治療の実績を元に、必要な治療費を交通事故の加害者側に請求できる制度があります。
具体的には治療費だけでなく、
- *事故や治療で会社を休業したことによる休業損害
*医師による診断書発行費用や病院への交通費
*むちうちを発症したことへの慰謝料
などをまとめて、加害者側に「示談金」という形で請求することが可能です。
慰謝料の相場は弁護士が交渉する「裁判基準」で最も高くなりすい
慰謝料の相場については、次の3種類があります。
- *強制加入である自賠責保険の算出方法を元にした「自賠責基準」
*任意保険の算出方法を元にした「任意保険基準」
*弁護士による交渉が必要な「裁判基準」
このうち「裁判基準」は最も高い相場になることが多いです。
例えば、3ヵ月間通院して実日数40日の通院でむちうちの治療を受けた場合、自賠責基準では一日あたり4,200円×入院期間、または4,200円×通院期間の2倍、という方法で慰謝料を計算するので、4,200×80で336,000円となります。
しかし、裁判基準では、入院期間と通院期間を元に弁護士が交渉を行うので、最低限の自賠責基準よりも多額の50万円前後の慰謝料を受け取れる場合があります。
裁判基準を適用する場合は、弁護士による交渉が必須条件となっていますので、当然弁護士への依頼が必要です。ただ、弁護士に示談金の交渉を依頼しておくと、症状が長引いた時に後遺障害等級の認定申請の手続きについても相談しやすくなるというメリットがあります。
どうやったら治るのか
むちうち症は頸椎の捻挫によって引き起こされるので、病気というよりはケガに近いです。そのため、むちうちの治療方法としては、痛みを取る、リハビリを行うなどの対症療法がメインになります。
鎮痛剤や湿布と併用して理学療法を受ける方法が最も多い
最も多いのは、鎮痛剤や湿布の処方と併用して理学療法を受けるといった治療方法です。むちうちによる痛みを薬で抑えるのも大切なことですが、痛みがあるからと動かないでいると、体の機能が弱ってきてしまい、治療の速度が遅くなってしまいます。
そのため、理学療法として、電気治療などの物理療法や、首のストレッチなどの運動療法を行い、身体の関節や筋肉が弱るのを防ぎます。これらを痛みを取る治療と合わせて受けることで、より早く痛みを軽減できるといわれています。
痛みやしびれがひどい場合にはブロック注射を受ける
首を動かせない、首が痺れて回らないなど、身体の動きに支障が出てしまうほど痛みやしびれがひどい場合には、ブロック注射という治療を受けることができます。
ブロック注射とは、痛みがある部分の神経に直接麻酔薬を注射することで、痛みを改善するという治療方法です。神経に麻酔を注射すると聞くと、麻酔が切れたらまた痛み始めるのではないかと思われることがありますが、実はそのようなことはないとされています。
痛みという信号は、痛みを感じる部分の神経から出されています。痛みが止まらない、痛みが激しいという場合、痛みを感じるための「痛い」という信号が過剰に出されていることがあり、痛い部分の神経そのものが過敏になっていることがあるようです。
ブロック注射は、痛みに過敏になっている神経を麻酔で一度落ち着かせて、痛みの信号を適切な大きさに戻す、という作用もあるとされています。そのため、痛みが止まらない、繰り返し痛む、などの症状に多く用いられています。
治らなかったら後遺障害等級認定を
むちうちの治療を行ってもまだ症状が残り、痛みやしびれが仕事に支障をきたしているような場合は、「後遺障害等級認定」を受けることができます。
後遺障害等級認定とは、交通事故が原因で起きた後遺症がこの先も回復しないことが見込まれており、さらにその後遺症で労働能力が低下し、自賠責保険が定めた等級に該当した場合に受けられる認定のことです。
この等級が認定されると、治療費や慰謝料などの示談金とは別に、障害認定された等級を元に損害賠償金が算出されて、被害者へ提示されます。等級の中でもより大きく労働能力が低下したと認められる級であれば、損害賠償金の金額は大きくなります。
後遺障害等級認定を受ける方法は「事前認定」と「被害者請求」の2つ
後遺障害等級認定を受ける方法には、相手側の自賠責保険会社が示談金を一括払いする際一緒に手続きを行ってくれる「事前認定」と、自分で保険会社に認定を申請する「被害者請求」の2つがあります。
事前認定は手間がかからない代わりに適切な級に認定してもらえない可能性があります。
一方、被害者請求はこちらで資料や申請書類などを揃える必要がありますが、級の認定が不服である場合に根拠をもって交渉できるというメリットがあります。
後遺障害等級に応じた慰謝料について
むちうちによって認定される後遺障害等級は、12級、または14級がほとんどです。先ほど治療費の項目で説明した慰謝料の認定基準をこの等級に当てはめると、14級の場合は自賠責基準で32万円、裁判基準で110万円、12級の場合は自賠責基準で93万円、裁判基準で290万円となります。
後遺障害等級では、どの等級に認定されるかという点も大切になってきますので、保険会社に自分の症状をより適切に認定してほしい場合は、弁護士に相談するのもよいでしょう。
むちうちの対処で悩んだら弁護士に相談する
以上、むちうちの原因や症状、対処法についてご説明しました。
今回触れたように、むちうちを発症すると、高額な治療費がかかってしまう場合や、回復の見込みがなく日常生活に支障をきたしてしまう場合もあるでしょう。
ですが、治療費を含む示談金や、後遺障害等級に応じた慰謝料については、弁護士の力を借りることで、適切な金額を受け取れるようサポートしてもらえます。むちうちの対処について不安に思うことがあれば、弁護士に相談してみることをおすすめします。
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