交通事故による怪我で仕事を休んだために発生した損害は、相手方の保険会社に休業損害証明書を提出することで補償されます。
休業損害証明書は相手方の保険会社指定の書類を用意して、勤務先に記入してもらいます。補償金額は自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士(裁判)基準の3つの基準によって算出されます。しっかり補償を受け取るためには、正確に記入漏れなく作成することが必要です。正しい書き方についてサンプルを使い、詳しく解説します。
交通事故で怪我をすると、その状態によっては仕事を休んだり、通院のため遅刻や早退をしたりすることがあるでしょう。そのために有給休暇を取得したり、給料が減少してしまったりするケースもありますが、相手方の保険会社に休業損害を請求すれば、その損失分が補償されます。この場合、「休業損害証明書」の提出が必要です。
そこで、今回は「休業損害証明書」の正しい書き方について詳しく解説いたします。
休業損害証明書とは
休業損害証明書は、給与所得者(パート・アルバイトも含む)が交通事故による怪我などが原因で仕事を休んだことで発生した損害を証明するための書類です。
相手方の保険会社指定の用紙に、勤務先(人事担当者が一般的)が記入したものを保険会社に提出します。
その内容に基づき、保険会社が補償額を算定して補償金が支払われます。
書き方や内容は保険会社によって異なることもあり、保険会社から用紙を受け取るか、保険会社のWebサイトからダウンロードする必要があります。
相手方が任意保険に加入していない場合は、自賠責保険会社に請求します。その場合は他の書類も必要になるため、必要書類一式を保険会社に送ってもらうことをおすすめします。
有給休暇を使った場合も休業損害証明書の提出で補償される
交通事故が原因の怪我などで有給休暇を取得した場合でも、休業損害証明書を提出すれば補償されます。これは、本来自由に使えるはずの有給休暇を交通事故によって使わざるを得なかったと見なされるからです。
病状固定後の休業損害は補償されない
「病状固定」とは、これ以上治療を続けても、症状が改善しないと医学的に判断されることです。病状固定後の休業については、休業損害では補償されません。
病状固定後も症状が残っている場合は、「後遺障害に対する補償」として補償されるためです。
また、症状固定前(治療中)であれば必ずしも休業損害が補償されるわけではありません。負傷した部位や程度、治療状況によっては、休業損害として認められないケースもあります。
休業損害の算出方法について
休業損害は「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士(裁判)基準」の3つの基準のどれかから算出されます。
自賠責保険基準の補償金額は1日あたりの基礎収入×休業した日数
自賠責保険は交通事故被害者に最小限の補償をするために、自動車運転者は是認加入が義務付けられている保険です。最小限なので、3つの基準の中で最も補償金額が少なくなっています。
補償金額は、「1日あたりの基礎収入×休業した日数(有給休暇・遅刻・早退も含む)」で算出されます。
自賠責保険基準では1日あたりの基礎収入は5,700円になり、請求者の職業に左右されません。ただし、休業損害証明書などで1日あたりの基礎収入が5,700円を超えることが明らかな場合は、1日あたり19,000円を上限として実際の損害額の補償が認められます。実際の収入が1日あたり5,700円を下回る場合は、5,700円に引き上げられます。
実際の収入を基準にする場合は、1日あたりの基礎収入を「事故前3ヵ月間の収入÷90日」で算出。その基礎収入×休業日数が休業損害補償額になります。サラリーマンの場合、各種手当や賞与も対象です。
任意保険基準の補償金額は自賠責保険基準より少し高くなるケースが多い
自賠責保険でカバーできない部分を補うのが任意保険です。保険会社ごとに基準があり、算出方法は公表されていませんが、自賠責保険基準より少し多い程度の補償金額になるケースが多いです。
弁護士(裁判)基準は他2つと比べて補償額が最も高くなる可能性が大きい
弁護士(裁判)基準は、弁護士を立て、保険会社と交渉や訴訟・調停する場合や、紛争処理センターなどで採用される基準です。過去の裁判例をベースにしたり、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)から算定されたりします。
基本的な算定方法は自賠責保険基準と同じで、「給与日額(基礎収入)×休業日数」になります。
3つの基準の中では、補償額が最も高くなる可能性が大きいです。
給与所得者以外でも休業損害補償されるケースがある
ここまで、給与所得者の休業損害補償について解説してきましたが、自営業者や事業所得者、会社役員、専業主婦(主夫)が交通事故で怪我をした場合でも休業損害補償がされるケースもあります。
自営業者や事業所得者の場合は、「事故前年の申告所得(収入額−必要経費)÷365日」が1日あたりの基礎収入になり、それに休業日数をかけて算出されます。
この場合、事故の状況、怪我の程度や治療経過、事業内容などを考慮し、休業の必要性が認められた期間が休業日数になります。所得証明できる書類(事故前年の税務署の受付印がある確定申告書の控えなど)の提出が必要です。
会社役員の場合は、報酬のうち役員の働きに対して支払われた部分だけが算出対象になります。株主への配当金を役員報酬として受け取っている場合や、法人税対策として役員報酬が多めに設定されている場合、経営者と親戚だからと他の役員より多く報酬をもらっている部分などは対象外です。
また、会社の規模・利益状況、役員の職務内容なども踏まえて判断され、他の役員・従業員の給与額や職務内容も判断要素に含まれるのが一般的です。
専業主婦(主夫)の場合は、1日あたりの基礎収入が「全年齢平均年収額(340〜350万円くらい)÷365日」で算出されますが、怪我の状態や家族構成・家事分担内容などの事情が加味されて休業日数が算定されます。
しかし、怪我をしていても主婦(主夫)は家事を全くしないというのは難しいもの。自宅療養日を休業日数として請求する場合には、医師が作成した「◯日間自宅療養をすべき」という意見書や診断書を提出したほうが認められやすくなります。
勤務先に休業損害証明を作成してもらおう
休業損害証明書は勤務先に作成してもらう必要があります。面倒だからといって自分で作成したり、補償を多くもらいたいからといって虚偽の記載をしたりすることは認められていません。
会社の人事担当者によっては、休業損害証明書を作成した経験がなく、書き方がわからないというケースもあります。まれに作成を断られることもあるようですが、証明書がないと休業損害は補償されません。各保険会社のWebサイトでは、書式のダウンロードとともに、詳しい書き方が閲覧できることを担当者に伝えるなどして、諦めずに説得しましょう。
事故前年分の源泉徴収票、または事故前過去3ヵ月分の賃金台帳の写しが必要
休業損害証明書には、事故前年分の源泉徴収票を添付する必要があります。源泉徴収票が発行できない場合は、事故前過去3ヵ月分の賃金台帳の写し(給与明細は不可)が必要です。手元に源泉徴収票がない場合は、勤務先へ証明書と一緒に依頼しましょう。
休業損害証明書の記載例
ここからは休業損害証明書の記載例を解説します。どの保険会社でも用紙のレイアウトや記入項目の内容はほぼ同じですが、微妙に違いがあります。必ず相手方の保険会社指定様式の用紙で作成してください。
今回使用したサンプルは、休業損害証明書の中でも詳細に記入するタイプです。実際に記入する様式とは違う場合でも参考になるように解説します。
①交通事故による怪我でいつからいつまで休業したのかを記入します。遅刻・早退も含みます。請求者の氏名や役職なども忘れずに記入します。
②月ごとに欠勤・有給休暇・半日欠勤など該当するマークを記入します。
例:欠勤は◯、有給休暇は◎、勤務先の所定休日は☓など
※項目2.と3.は内容が一致するようにします。
有給休暇や遅刻・早退などは裏面にも記入する必要があります。
「使途を限定した休暇」とは、傷病休暇・忌引休暇など勤務先で使途が決まっている休暇です。また、「勤務先所定の休日」とは、会社の一斉休業日やシフトの公休日、休日出勤の代休などです。
③休業した分の給与の支給についてア・イ・ウのどれかに◯をつけます。ウに◯を付けた場合は、内訳と計算根拠を<計算根拠(式)記入欄>に記入します。
④事故前過去3ヵ月分の本給・付加給・社会保険料などを記入します。
毎月の締め日や所定の勤務時間(休憩時間を含む)など給料計算基礎についても記入します。
付加給とは、時間外勤務手当・通勤手当・皆勤手当などが該当。時間短縮勤務などを行っている場合は、実際の勤務時間を記入します。
※締め日によって過去3ヵ月間の日付が変わります。例えば締め日が20日の場合は以下のとおりです。
- *事故日が4/10 →12/21〜3/20
*事故日が4/25 →1/21〜4/20
⑤記入日・所在地・商号または社号などはゴム印でも可です。代表者氏名や電話番号・担当者名を記入し、社印(個人印は不可)を押印します。
⑥前年分の源泉徴収票を添付します。源泉徴収票がない場合は、事故前過去3ヵ月分の賃金台帳の写しを添付します。(給与明細は不可)
生命保険外交員など自由業者の場合は、「報酬、契約金及び賞金の支払調書」または事故前直近1年間の支払明細書を提出します。
マイナンバーが印字された書類を提出する場合は、その部分を黒いマジックペンなどで塗りつぶして見えないようにしてください。
⑦時間有給休暇を取得した場合は、取得日と時間を記入します。
⑧遅刻・早退がある場合は、減給の有無と遅刻または早退に◯をつけ、取得した日付と時間を記入。同じ日に遅刻と早退をした場合は、遅刻と早退に分けて記入します。
事故による休業が3ヵ月以上になった場合は用紙をコピーして記入
休業損害証明書は1枚に付き3ヵ月分の証明ができます。休業期間が3ヵ月以上になった場合は、用紙をコピーして2枚目以降に記入します。また、事故による欠勤が原因で給与が変動した場合、実際の支給・減給額の計算式も記入してください。
休業損害証明書を正しく作成してもらい補償してもらおう
交通事故による怪我などで休業し、給与などに損害があった場合は休業損害証明書を相手方の保険会社に提出することで、損害を補償してもらえます。書類は必ず相手方の保険会社指定のものを使い、勤務先に作成を依頼しましょう。間違いや記載漏れ・虚偽記載がないように注意が必要です。
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