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歩きスマホによる事故は想像を絶する現実

成田 翼 弁護士
弁護士法人 エース
代表弁護士成田 翼
所属弁護士会第一東京弁護士会

目次

スマホによる交通事故の急増は、もはや社会問題レベルに

歩きスマホによる事故の数と種類

東京消防庁のもとで公表されている「歩きスマホ等に係る事故に注意!」[注1]によると、
平成25年から平成29年の5年間で「歩きながら」や「自転車に乗りながら」などのスマホ操作で起こった事故で救急搬送された人の数は“199人”となっています。

年度救急搬送人員
平成25年36人
平成26年31人
平成27年42人
平成28年58人
平成29年32人

この統計を少ないと思うのは危険です。この統計は救急搬送された人数であって、歩きスマホによる事故全体の件数ではありません。
警察庁では「歩きスマホ」を含む「スマホ事故」の件数を公表しており、それが以下のとおりです。[注2]

年度全事故件数うち死亡数
平成25年度2,038件36件
平成26年度2,192件31件
平成27年度2,537件39件
平成28年度2,605件36件
平成29年度2,832件40件
平成30年度2,790件42件

以上のことから、ここ5年間で2,000件を超えるスマホ関連の事故が起きていることがわかります。

[注1]東京消防庁:歩きスマホ等に係る事故に注意!

[注2]警察庁:やめよう!運転中のスマートフォン・携帯電話等使用

救急搬送に係るスマホ事故の種類で最も多いのは「ぶつかる」

東京消防庁は、歩きスマホによる事故件数を事故腫別に分けた結果も公表しています。

事故の種類救急搬送人員
ぶつかる88人(44.2%)
転ぶ62人(31.2%)
落ちる44人(22.1%)
その他4人(2%)
不明1人(0.5%)
合計199人

スマホによる事故の種類で最も多いのは「ぶつかる」でした。このことから、いかに歩きスマホの人が前を見られていないかがわかります。

歩きスマホをしていた側は罪に問われるのか?

悩む

結論から申し上げると、歩きスマホによる事故は歩行者側も罪に問われる可能性があります。
歩行者側に過失が認められやすい(罪になる可能性のある)代表的な例として、スマホゲームをしながら歩くことが挙げられるでしょう。
スマホゲームの中には画面に集中しないと勝ち負けが決まってしまうものもあるため、スマホの画面に集中しすぎた結果事故を起こしてしまったという例がかなり多いのです。

歩きスマホによる事故ではありませんが、運転中にスマホゲームを行なっていた女性が、85歳の女性をはねて死亡させてしまうという事故が実際に起きています。

もちろん、はねてしまった女性は検挙という結果になりました。
そして、何も過失がない自転車などと歩きスマホの人が接触事故を起こしてしまった場合にも、歩行者側に以下のような刑罰が下る可能性があります。

  • 刑法第209条「過失傷害罪」:30万円以下の罰金または科料
  • 刑法第210条「過失致死罪」:50万円以下の罰金
  • 刑法第211条「重過失致死傷罪」:5年以下の懲役・禁錮、または100万円以下の罰金

「ながらスマホ」の厳罰化が可決・成立された

スマホ事故の急増が危惧されたことで、2018年に「ながら運転の厳罰化」が提案され、衆院本会議で可決・成立されています。
携帯電話を使用(保持)しながら運転をして交通の危険を発生させた場合の罰則は以下のように厳しくなります。

違反状況改正前改正後
携帯電話の使用に
伴う危険を与えた場合
3ヶ月以下の懲役
または5万円以下の罰金
1年以下の懲役
または30万円以下の罰金
携帯電話を使用した場合5万円以下の罰金6ヶ月以下の懲役
または30万円以下の罰金

施行は2019年の12月1日と発表されました。

これは自動車運転中の罰則ですが,上記のように歩きスマホでも刑事罰に問われる可能性があることは知っておいた方が良いでしょう。

歩きスマホしていた側が請求される損害賠償一覧

歩きスマホをしていた側が請求される損害賠償一覧

もし歩きスマホをしていた側に過失が認められ,相手がケガをした場合、以下のような損害賠償を求められる可能性があります。

  • 治療費(被害者側)
  • 修理費用(事故によって被害者の所有物が破損した場合)
  • 入院・通院に関する費用
  • 逸失利益(無事故の場合に得られるはずだった収入に対する補償)
  • 休業費(被害者が入院などで業している間の収入)
  • 後遺障害慰謝料(事故後の後遺症に関する慰謝料)
  • 死亡慰謝料(被害者が死亡した時、遺族に支払う慰謝料)

歩きスマホで起こした事故ではありますが、相手の損害によっては支払い金額は膨大になると考えてよいでしょう。

スマホが原因で起こった事故事例4件

上述した事例のほかに、過去発生した歩きスマホやながらスマホによる事故をまとめました。
スマホを持っている人なら誰でも加害者、被害者の両方になりえるということを再認識しましょう。

事例①:歩きスマホで学生がホームへ転落し死亡[注3]

スマートホンの画面に夢中になっていた学生がホームから足を踏み外し、電車とホームの間に挟まれ死亡。
捜査関係者によると、ホームに設置された防犯カメラに、スマホを見ながらホームの線路側を歩き、学生が足を踏み外す姿が写っていました。

[注3]産経新聞:JR東静岡駅で中3男子死亡 歩きスマホでホーム転落か

事例②:20代の女性転落、電車にはねられ死亡[注4]

20代の女性がホームから転落し走行中の電車にはねられ死亡した。
女性はスマホの画面を見ながらホームを横切るように歩いていたとのこと。耳にはイヤホンもついており、周りの声も聞こえていなかった。

[注4]Yahoo!ニュース:「歩きスマホ」でホームから転落死:「自分だけは大丈夫」ということはない

事例③:自転車+携帯電話の事故で多額の賠償金が命じられる

携帯電話を見ながら夜の道を自転車で走行していた女子高生が、歩行していた女性と衝突した。
衝突された女性は転倒時のケガが原因で歩行が困難になり職まで失い、生活保護を受けないと生活ができないという結末に。女子高生側には5,000万円の慰謝料が命じられた。

事例④:重過失致死傷罪で禁錮2年、執行猶予4年の判決[注5]

スマホを使用しながら自転車を運転していた女性が歩行者専用道路で高齢女性をはね、死亡させた。後の調査で持っていたのはスマホだけではなく飲料も持っていたと発覚。つまりハンドルは握っていなかったということになる。その状態で走行していたという。
女性には「重過失致死傷罪」で禁錮2年、執行猶予4年の判決が言い渡された。

[注5]朝日新聞:ながらスマホの自転車死亡事故、元大学生に有罪判決

歩きスマホの事故が減らない最大の理由「自分は大丈夫」

歩きスマホに関する啓蒙活動は急速に増加しており、電車のホームや街並みにも歩きスマホへの注意喚起を促したポスターが貼られ、アナウンスも流れるようになりました。

しかし、歩きスマホを含めたスマホによる事故は減るどころかむしろ増えています。

最大の理由として挙げられるのは「自分は大丈夫」という認識があるからと考えられています。歩きスマホで事故を起こしていない人は、単純に運がよかった、または周りが避けてくれているだけといっても過言ではありません。

歩きスマホで事故を起こしたら弁護士へ相談しよう

弁護士へ相談

事故を起こした相手とは弁護士を通してやり取りすることをおすすめします。

理由は事故の重傷度によっては、刑事裁判へと発展する可能性があるためです。またもし刑事事件にならなくても相手側と今後の相談や交渉を行なってくれます。どちらの場合も自分1人で行うことは不可能であり、効率が悪いのでやめましょう。

事故を起こしたら速やかに警察・消防に連絡

歩きスマホによる事故を起こしてしまったら、その場から逃げずに警察や消防へ連絡をとりましょう。

まずは相手と自分の怪我の有無を確認し、道路における危険防止の措置をとってください。もし自身が歩行者でも、相手が自動車の場合はドライブレコーダーに記録が残っていることが多いです。
逃げても、意味がありません。一度冷静になり、警察がくるまで待ちましょう。

歩きスマホが危険・迷惑な4つの理由

危険

ここでいま一度、歩きスマホがなぜ迷惑なのかを見直してみましょう。「歩きスマホは危ない、そして迷惑」とよく言われはするものの、「なぜ危険なのか」「なぜ迷惑なのか」を具体的に提示していきます。

前を見ているようで見ていないように感じられるから

「歩きスマホをしながら前を見ることができている」と豪語する人がいますが、本当にそのとおりでしょうか?たとえ仮に前を見ることができていたとしても、歩きスマホをせずに歩いている人からしたら、同じ「歩きスマホをしている人」にすぎません。また、もし前が見えていたとしても、見えているという証拠はどこにもないはず。今までぶつからなかった人は周りの人間に恵まれていただけでしょう。

どこを歩いているのか認識できないから

歩き慣れた土地であれば歩きスマホをしていても、なんとなく歩けるかもしれません。しかし、初めての場所や行き慣れていない場所で歩きスマホをすると、土地勘がないために大事故につながる可能性があるのです。上述しましたが、実際に歩きスマホをしていた学生がホームに転落して死亡した例もあるわけですから、誰もがどこを歩いているか認識できているわけではありません。

歩きスマホをしている人にわざとぶつかる人が増えているから

近年、歩きスマホをしている人にわざとぶつかりトラブルが起きるケースが増えているそうです。わざとぶつかるのは当然好ましくありません。しかし、ぶつかられた当人も、歩きスマホさえしなければ避けられた事態でもあります。こうしたトラブルで喧嘩となり怪我を負う事例もでてきていますから、他人事ではないと思った方がよいでしょう。

ぶつかる瞬間に避けるのは歩きスマホを「していない」方だから

上述したように、歩きスマホで起こりやすい事故は「衝突」です。しかし中には衝突を避けられている人もいます。その理由の多くは、歩きスマホをしていない人が避けてくれているからでしょう。何度も述べますが、今までぶつかった経験がない人は周りがぶつからないように避けてくれる人ばかりだったからです。決して自分がうまく避けながら歩けているわけではありません。

例えば歩きスマホをしているあなたの目の前に、車椅子に乗っている人や歩行が不自由な人が歩いてきたとします。その方々はあなたをとっさに避けることができません。
結果、歩きスマホをしているあなたに衝突してしまい、運が悪ければ大きな事故につながってしまうかもしれないのです。

歩きスマホなどによる事故を起こさないために一人ひとりができること

歩きスマホなどによる事故を防ぐためにできることは、以下の7つです。このような移動時間のちょっとした心がけが、自分と人の命や身体を守ることにつながるのです。

スマホをいじるときは一度立ち止まるように心がける

どうしても今この瞬間にスマホをいじらないのであれば一度、壁際に寄り、立ち止まって操作をしましょう。誰でもできる簡単なことです。

外出先(道路)などでスマホゲームをしない

ゲームはしょせんゲームです。極端かもしれませんが、トラブルによる大けがや命の危険と比べたらゲームの時間など一瞬で儚いものでしょう。もしあなたが事故にあってしまえばゲームどころではないはずです。危険を冒してまで歩きスマホを強行しながら続けるゲームはないといっても過言ではありません。

マップを見るときも必ず立ち止まる

マップを見ながら歩くときも同様に立ち止まりましょう。たとえゲームをしていなくてもこれも立派な歩きスマホです。どんな形であれ周りから見ればスマホを操作しながら歩いている人という風にうつってしまいます。

歩くときはスマホをバッグにしまう

必要ないときはスマホをバッグにしまいましょう。目的地や、落ち着ける場所、自分の家に着いたときにスマホを見ても時間的にそこまで差はないはずです。

友人がいじっていたら声をかける

歩きスマホをしている友人を注意するのも1つの手です。お互いに声をかけ合えれば、事故を未然に防げるかもしれません。

スマホを触る前に本当にいま触らないといけないのか考える

「いま触るべき案件があるのか、それとも単純に癖で触ってしまうのか、触りたいのか」まずはスマホを触る前に考えてください。もし「いま触るべき案件がある」のであれば、上述したように壁際へ寄り立ち止まりましょう。それ以外であれば我慢した方がよいでしょう。

自転車や車に乗っているときはスマホをいじらない

歩きスマホと同様に、何かを運転しているときは絶対にスマホをいじってはいけません。道路交通法や各都道府県の条例でも禁止されている法律違反です。

人生を棒に振らないためにも歩きスマホは絶対にやめよう

上述したように、歩きスマホによる事故は自分が被害者になるだけではなく、人を殺めてしまう凶器にもなりえてしまいます。

どちら側になってもよいことは1つもありません。現代はスマホが普及し、なんでもスマホ1つでできる世の中になりました。スマホが手放せない世の中になったといっても過言ではないでしょう。ただ、だからといって歩きスマホやながらスマホをしてもよいという理由には一切なりません。

もし歩きスマホが癖になってしまっているのであれば、人生を棒に振ることをリスクにしてでも、いま歩きスマホをするべきなのかをもう一度よく考えてみましょう。

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