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そもそも慰謝料とは何だろう?
慰謝料というのは,ある人の行為によって被った精神的苦痛を慰謝する(謝り慰める)ための金銭のことです。
日本の民法では、損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。
と記載され、原則として損害賠償は金銭賠償によることと定めています。
交通事故で生じる損害というのは,人身損害と物的損害の2種類であり,これらも当然,金銭の額によって賠償することになります。 その額の算定にあたって,「損害の費目」というのを積み重ねて行うのが通常です。
例えば,交通事故では,損害の費目として,治療費,休業損害,通院交通費,入院雑費,逸失利益などが損害の費目としてよく計上されます。 そしてもちろん,慰謝料もこの損害の費目の1つとして損害額に計上されることになるものです。
他の損害項目がある程度,客観的に算定できるのに対し,慰謝料というのはどうしても評価的なものになるという特徴があります。
しかし,もし全く慰謝料を判断する基準がなければ,1つ1つの事件について最終的な判断を下す裁判官ごとによって慰謝料額が大きく異なってしまうことになりかねません。
それでは被害者間の公平を害することになるため,ある程度類型化された慰謝料算定の基準というものが必要になるのです。
単なる慰謝料の相場ではなく,基準というのが重要です。
この基準化によって,慰謝料は,1人1人異なる精神的苦痛を慰謝するための金銭という主観的なものから,
一般的に被るであろう精神的苦痛を慰謝するための金銭として,客観的に額を算定することができるようになっているのです。
ここでは,交通事故に関連する慰謝料について説明していきます。
交通事故慰謝料の種類について
- 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
の3つがあります。
近親者固有の慰謝料という少し特殊な慰謝料もありますが,それについては後述します。
まず,入通院慰謝料(傷害慰謝料)というのは,名前の通り,交通事故によって入通院しなければならなくなる傷害を負わされたという精神的苦痛に対する慰謝料です。
怪我の種類や入通院の期間によって,その額が定められることになります。
後遺障害慰謝料というのは,交通事故によって後遺障害を負わされたという精神的苦痛に対する慰謝料です。
後遺障害の程度によってその額が定められますが,後遺障害の程度は自賠責の等級によって判断するのが裁判実務です。
死亡慰謝料は,死亡したことに対する慰謝料です。
死亡したのであれ精神的苦痛を感じないのではないかとか慰謝料は相続の対象にならないのではないかということが真面目に議論されていた時期もあったようですが,
現在では死亡に対する慰謝料が発生することも,慰謝料が相続の対象になることにも争いはありません。
この3つの慰謝料の算定方法(基準)については後述します。
交通事故慰謝料の3つの基準
交通事故には3つの基準があると言われます。
これは,上で述べた種類のことではなく,同じ慰謝料について,
- 自賠責基準
- 任意保険会社基準
- 弁護士基準(裁判基準)
という3つの基準があるということです。
つまり,全く同じ怪我をして同じ期間通院したとしても,この3つの基準のどれを使うかで慰謝料の金額が変わってしまうということです。
ちなみに,自賠責基準,任意保険会社基準,弁護士基準(裁判基準)の順に高くなっていきます。
では,どうしてこのような基準が発生してしまったのでしょうか?
全て弁護士基準(裁判基準)ではない理由はどこにあるのかについて簡単に解説したいと思います。
あくまで最低限の賠償である自賠責基準
まず,自賠責基準の慰謝料です。
この基準は原則として一番安いものである上,治療費や休業損害を含めて120万円が上限となっているという意味で特殊です。
どうしてこのような設計になっているかというと,自賠責はそもそも交通社会の発展に伴いどうしても発生する交通事故被害者に対して最低限の損害補填をするためのものだからです。
適切な損害補填については,加害者がしっかりと行うべきであり,その加害者は適切な損害補填をする資力がないのであれば任意保険に加入しておくべきことが期待されているのです。
さて,自賠責基準の入通院慰謝料の金額は,
【入通院日数×4200円×2】又は【入通院期間×4200円】の少ない方とシンプルです。
この算定方法からすると,単純計算上は,入通院の期間や日数によっては任意保険会社基準や弁護士基準(裁判基準)を上回ることがあり得ます。
しかし,上で述べたように,自賠責には,傷害部分は治療費や休業損害を含めて120万円という枠があり,
また交通事故の治療は通常は自由診療であるため(実は,健康保険を使うこともできます。)
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治療費だけで数十万円〜数百万円となって120万円の枠をほぼ使い切ってしまうことが多く,慰謝料までカバーできないことが多いのです。
そのため,よほど怪我が軽症だったという場合を除いては,自賠責だけで被害者に生じた交通事故損害を全て補填できることは稀です。
なお,自賠責は人身損害についてのみ利用できるもので,物損については加害者本人や加害者が加入しているはずの任意保険会社に対して請求するよりありません。
法的な意味はない任意保険会社基準
次に,任意保険会社基準です。交通事故被害者にとっては,これが最も納得のいかない基準です。 というのも,任意保険会社というのは,普通は対人賠償について無制限の保険金支払義務を負っており,弁護士基準(裁判基準)と同じ基準で支払いをするべき立場にあるのです。 しかし,保険会社は結局は営利企業なので,できる限り保険金を払いたいくないというのが本音です。なので,慰謝料の弁護士基準(裁判基準)のことは知ってはいるけれども,少しでも安い慰謝料で納得してもらうために作ったのが任意保険会社基準なのです。/span> これはあくまでも各保険会社が社内基準として作成しているものですので,法的には何の意味もないものですし統一もされていませんが,だいたい弁護士基準(裁判基準)の6〜7割に設定されていることが多いです。
弁護士基準(裁判基準)を示した上で,「本当はこれくらい支払うべきなんですけどその5割〜7割くらいのこの金額がで示談してください」などと言って応じてくれる被害者がいるでしょうか?
考えにくいですよね。
なので,これと同じことを弁護士基準(裁判基準)を持ち出さずに説明するための道具が任意保険会社基準なのです。
「これが任意保険会社基準の慰謝料です。これは自賠責の慰謝料基準よりもこれくらい高いです。」という説明になり,弁護士基準(裁判基準)を知らない交通事故被害者の方は,大手企業である保険会社がそれほど悪いようにはしないだろうと思って示談してしまうことがあり,
まさにそれを狙って作られたものが任意保険会社基準なのです。
唯一の正当な基準,弁護士基準(裁判所基準)
最後に,弁護士基準(裁判基準)です。 これは,話し合いで慰謝料の額がまとまらずに裁判に至った場合にはこの基準になるという慰謝料の額です。 法治国家である日本では,この基準こそが実務的に意味のある唯一の基準です。 本当にこの基準の額で精神的苦痛の十分な慰謝ができているのかは評価の問題ですが,この基準が最も高い基準ですので,加害者や加害者の保険会社に対してはこの基準の慰謝料を請求していくべきです。 ただし,厄介なのは,保険会社は弁護士が入らない限りは原則としてこの基準による慰謝料算定を行いません。 これだけインターネットが発達して,本当の慰謝料基準である弁護士基準(裁判基準)が広まってきている現在でも,被害者が弁護士を付けずにその基準額を主張しても全く取り合ってくれず「それなら弁護士を付けてください」という対応になるのです。 これが,裁判で認められるであろう慰謝料額の基準が,弁護士基準とも呼ばれる所以でもあります。
入通院慰謝料(傷害慰謝料)の算定方法
入通院慰謝料(傷害慰謝料)がどのように算定されているかご存じですか?
入通院慰謝料(傷害慰謝料)は,まず傷病の種類を他覚的所見のあるものとないものに分け,あとは入通院の期間によって定められることになっています。 いわゆる赤い本という交通事故賠償に関わる弁護士のバイブル本があるのですが,これに上記基準を可視化した表があり,この表に従って入通院慰謝料(傷害慰謝料)は算定されています。
実際には,いちいち方程式のようなものを使って算定するのではなく,この表から慰謝料額を判断するので,算定いうよりは基準という方が適切かもしれません。
以下が,その表です。 他覚的所見のある場合には別表Iを,ない場合には別表IIを使うことになります。 他覚的所見というのは,例えば画像所見のような症状を裏付けることのできる客観的所見のことです。 以下にその表を引用します。
公益財団法人 日弁連交通事故相談センター東京支部(2019年2月8日).民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)2019(平成31年)/公益財団法人 日弁連交通事故相談センター東京支部/187〜188頁
公益財団法人 日弁連交通事故相談センター東京支部(2019年2月8日).民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)2019(平成31年)/公益財団法人 日弁連交通事故相談センター東京支部/187〜188頁
せっかくなので,他覚的所見のある場合とない場合でどの程度慰謝料が異なってくるかを見てみましょう。
たとえば,入院せず6ヶ月通院した場合を見ると,他覚的所見のある場合である別表Iでは116万円,ない場合である別表IIでは89万円とされていることが分かります。 分かりやすくいうと,骨折して6ヶ月通院した場合は116万円,頚椎捻挫や腰椎捻挫といったむち打ちで6ヶ月通院した場合には89万円ということですね。 通院6ヶ月で27万円という差を大きいと見るか小さいと見るかは人それぞれだと思いますが,何れにしても傷病の違いで入通院慰謝料(傷害慰謝料)に差が出ることは理解できたと思います。
なお,非常に重傷という場合や相手方の交通ルール違反の程度が著しい場合(飲酒運転など)には,入通院慰謝料(傷害慰謝料)が増額されることがあります。
後遺障害慰謝料の算定方法
後遺障害慰謝料の算定方法は,入通院慰謝料(傷害慰謝料)よりも遥かにシンプルです。 後遺障害の程度によって定まる,というのが建前ですが,実際には自賠責が認定する等級によって定められているといって過言ではありません。
たとえば,14級なら110万円,13級なら180万円,12級なら290万円などのように定まっています。これをまとめたのが次の表です。
等級 | 保険金額 |
---|---|
第1級 | 3,000万 |
第2級 | 2,590万 |
第3級 | 2,219万 |
第4級 | 1,889万 |
第5級 | 1,574万 |
第6級 | 1,296万 |
第7級 | 1,051万 |
第8級 | 819万 |
第9級 | 616万 |
第10級 | 461万 |
第11級 | 331万 |
第12級 | 224万 |
第13級 | 139万 |
第14級 | 75万 |
入通院慰謝料(傷害慰謝料)と比べると高額ですが,実際にそのような症状が残った場合の精神的苦痛を慰謝できるかといわれると疑問がないわけでないですが,これが裁判所の基準だということを理解しておく必要があります。 ちなみに,裁判所は自賠責の後遺障害等級認定の判断に縛らないというのが建前ですが,ほぼ自賠責の後遺障害等級認定通りに判断されるのが実際です。
では,この表よりも高い金額が認められる場合はどのような場合は全くないのかといえば,あります。 慰謝料の調整的機能といって,たとえば逸失利益が算定できないタイプの後遺障害の場合には後遺障害慰謝料を増額することでバランスをとります。 具体的にいうと,たとえば脳の損傷による味覚脱失という後遺障害があります。 味覚脱失した場合に認定される後遺障害等級は12級ですので,原則論でいえば後遺障害慰謝料としては290万円となります。 しかし,他の12級の後遺障害と異なり味覚脱失は通常は労働能力に影響を与えないので,逸失利益は0円ということになります。 これでは全体としての賠償金額にかなりの差がついてしまうため,後遺障害慰謝料を増額することでバランスをとる,ということです。 ただ,バランスを取るといっても,たとえば可動域制限で12級が認定された場合の逸失利益は数百万〜千数百万円になることが多いのに対し, 味覚脱失で増額される後遺障害慰謝料の金額は150〜300万円程度ですので,完全にバランスが取れるわけではなく,増額されないよりはマシといった程度です。
死亡慰謝料の算定方法
死亡慰謝料は,赤い本と呼ばれる交通事故賠償に携わる者のバイブルの中で,年齢や家族構成によって金額の基準が設定されています。 次のように設定されています。
- 一家の支柱 2800万円
- 母親,配偶者 2500万円
- その他 2000万円〜2500万円
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